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『困ってるひと』

困ってるひと困ってるひと
(2011/06/16)
大野 更紗

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 大野更紗『困ってるひと』ポプラ社、2011

 本書はジャンルとしては闘病記になるだろう。しかし、「闘病」という言葉が想わせる、「私はこんなにシンドイ思いをしているのよお、ゴリゴリ」という姿勢はほとんど見られない。むしろ病や病によってもたらされる辛さや苦しさを笑い飛ばしている。闘っている相手は、病というよりも、社会の仕組みや制度である。それすらも「モンスター」といささかコミカルなものとして描かれている。

 著者は現在、福島原発事故の避難ラインギリギリ最前線地域となっている福島のド田舎山間の集落出身という。彼女は、ここをムーミン谷と言い、両親はムーミンパパママとして本書に度々登場してくる。読み進める内に、本当にムーミン谷に思えてくるから不思議である。

 本書は世にも稀な難病に罹患した一人の女子が、大難病リーグ養成ギプス学校通称「オアシス」(正式名称ではない)に入るまでの過程、そこで過ごした日々、そこを出て在宅療養をするまでをつづった抱腹絶倒の闘病記である。

 もう少し詳しく述べよう。ムーミン谷に生まれた一人の女子は、高校時代に9・11とその後の世界を見て何もかもに嫌気がさし、上智大学外国語学部おフランス語学科に入ったものの、学部一年目にして、ビルマ難民という運命の「問題」と出会ったことでビルマ女子にクラスチェンジした。ビルマ国境を越えて難民の現状を知るためにインタビューをしたり、「危険」地域にもよく入ったりしたという。そして、もっとビルマの勉強がしたいと考え大学院に入った矢先に、極めて稀なる難病にかかり、稀なる治療を受け、稀なる難病生活をし、入院中の身にもかかわらず、やむにやまれぬ事情により、病室から遠隔操作で引っ越しをした。途中、難病女子がその変形としてのおしり女子となるのだが、どういうことかは読んでのお楽しみである。

 こう書くと深刻に思えるが(どう考えても深刻だが)、だからといって、本書にいわゆる「お涙頂戴」の要素は全くない。いや、敢えて言えば、爆笑し過ぎて腹が痛くなって涙が出るということはあるかもしれないが、同情を引くような書き方はされていないので、その種の涙は出てこない。ケタケタ笑いまくるのが本書の読み方である。

 もっとも、実際、お読みになればわかるように、著者の病気の症状は複雑多岐にわたり、とてつもなく深刻である。また、役所との折衝など、健常者でさえ音を上げることにも果敢に取り組む(そうしないと生き延びられないからだ)。それすらも笑い飛ばす。いや、笑い飛ばさなければやっていられないというのもあるだろうが、「私はこんなに大変な病なのよ、わかって」という本は誰も読みたくないだろう。少なくとも著者は自分でそう思ったからこそ、こういう愉快な本にしたのだと思う。

 どのように愉快なのか。例えば、危篤状態に陥った際に両親が飛んできた様子を、ふつうなら「周囲の状況も、朦朧としてよくわからなくなっているなか、目の前に両親が現れた」となるであろうところを、著者は「朦朧としてよくわからなくなっているなか、目の前に突如、二匹のムーミンが現れた」と描く。そこを読み、病室に二匹のムーミンがいる様を瞬時に想像して、「危篤」という深刻な事態であるのを一瞬忘れて爆笑してしまった。

 ほぼ常に爆笑していられる本だが、薄っぺらな内容ではない。難病人や障がい者を取り巻く社会の仕組みの不可解さや困難もつづっているし、一口に「難病」といっても程度や症状は人によって違うし、また援助の罠も書いている。人が一日生きるというのがどれほどに奇跡的なことかも書いている。私自身経験があるけれども、立って歩くだけでも決して当たり前のことではないのだ。

 序章を抜かして、章題は全て「わたし、ビルマ女子」「わたし、瀕死です」「わたし、シバかれる」という構文である。「わたしは」と助詞「は」を抜かした構文であるため、自己主張の要素が弱まり、著者自身が難病に罹患している自分をどこか突き放して見ている、そういう印象を抱かせるタイトルである。だからこそ、深刻な印象をそれほど感じないのかもしれない。

 本書は抱腹絶倒の闘病エッセイという新ジャンルを切り開いた。こういう時代だからこそ笑いはとても大事である。サンデル先生も真っ青の難病白熱教室は熱いのだ。
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プロフィール

EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

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