Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『銀河英雄伝説7 怒濤篇』

銀河英雄伝説〈7〉怒涛篇 (創元SF文庫)銀河英雄伝説〈7〉怒涛篇 (創元SF文庫)
(2008/02)
田中 芳樹

商品詳細を見る


 田中芳樹『銀河英雄伝説7 怒濤篇』創元SF文庫、2008

 退役生活に別れを告げ、”不正規隊”を率いてヤン・ウェンリーは独立を宣した星系自治体エル・ファシルに合流した。そして、イゼルローン要塞二度目の奪取に着手する。その際にちょっとした小細工をいくつか弄するのだが、それを起動させるパスコードに笑ってしまった。ヤンはどんな詭計でイゼルローンを奪取するのか。

 一方、自由惑星同盟を完全に粉砕するため、首都ハイネセンへ艦隊を差し向けたラインハルトに、同盟軍の老将ビュコック率いる艦隊が最後の抗戦を試みる。ラインハルトの降伏勧告に対して、ビュコック提督が言った言葉が印象深い。ラインハルトの臣下にはなれない、民主主義とは対等の友人をつくる思想であって、主従をつくる思想ではないと言った後に、提督はこう述べる。「わしはよい友人がほしいし、誰かにとってよい友人でありたいと思う。だが、よい主君もよい臣下ももちたいとは思わない。だからこそ、あなたとわしはおなじ旗をあおぐことはできなかったのだ」と。

 ラインハルトの銀河帝国は皇帝を戴く専制国家である。他方、ヤンやビュコックが一貫して守ろうとした自由惑星同盟は民主主義国家である。二つを両立させることはできない。そして、ラインハルトにはラインハルトの考えがあり、ヤンにはヤンの考えがあって、それぞれの政体で己の務めに当たっている。

 二つの立場が対立すると、物事の表層しか見ない人は、「そんなに堅苦しく考えず、仲良くやっていけばいいではないか」と言う。そういう人は多分、専制国家がお似合いだと思う。他人に考えてもらうという楽をしたいならそうすればいい。しかし、事はそう簡単ではないというのは、二人の生き様と、そこに集う無数の人たちの軌跡が物語っている。

 「銀英伝」は戦争物語である。しかし、単純に「戦争反対」を訴えるものでもなければ、日常生活からの脱却や飛躍を主眼として、目を覆わんばかりの暴力を描くエンターテインメント作品でもない。むしろ、著者はそのどちらでもない作品を描こうとしたのだろうと、久美沙織氏は解説で推量しておられる。多分そうだろう。戦争が日常である人生でいろいろな立場で真摯に生きる人間群像を、どの立場にも与せずに、あくまで公平に描く。魅力的な人物が多数いる中で、この要求を十分に満たし、なおかつエンターテインメント作品としても面白いものにするのはとてつもなく困難だ。けれども、著者はそれをやってのけている。その著者がこの作品を通して伝えようとしていることは何か、単に楽しみのために読むだけでなく、それを考えることも読者に投げかけられた問いのような気がした。
関連記事
スポンサーサイト

Appendix

プロフィール

EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

最新トラックバック

月別アーカイブ

カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。