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『結ぼれ』

結ぼれ結ぼれ
(1997/10)
R.D. レイン

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 R・D・レイン(村上光彦訳)『結ぼれ』みすず書房、1973(1970)

 イギリスの精神医学者レインによる、もつれ、からまった人間関係の種々相を切り取った詩集です。使われている言葉自体は簡単なもので、意味のとりにくいところはありません。ただ、同じ言い回しが続き、それが否定されたり肯定されたりといったことがところどころで繰り返されるので、混乱しているように思えます。

 私はこの詩集を、同じ訳者によるエリ・ヴィーゼル『夜・夜明け・昼』の訳者あとがきで知りました。この詩集のあるページが、『昼』に出てくる二人の人物の関係を想起させずにはおかないと訳者は述べておられました。「世界にこんなに多くの苦悩があるというのに/彼はしあわせになるわけにいかない/もし彼がふしあわせなら/彼女はしあわせになるわけにいかない……彼は、自分がしあわせだと、自分はいけないやつだと、そして彼女がふしあわせでも、自分はいけないやつだと、感じてしまう」。

 この一節は、互いに相手をしあわせにしたいと願いつつ、苦悩の影を追い払うことができずにいる男女の心模様を簡単な言葉で的確に描いています。

 「序」でレインはこう書いています。「本書において素描したもろもろの模様は、人間を束縛している諸関係にかんする、リンネにも比すべき分類学者の手でもって、まだこれまで仕分けられたことのないものである」と。この詩集は、人間の出会いがつくる心の状況の多様なシェーマについての、一つのシナリオ、一つの短編小説、一つの心理的寓話とも言えるものです。出会いの素描は正確かつエレガントです。

 「彼女はしあわせになりたい/彼は自分にはしあわせになる資格がないと感じている/彼女は彼にしあわせになってもらいたい/そして彼は彼女にしあわせになってもらいたい/彼は、自分がしあわせだと、自分はいけないやつだと、そして彼女がふしあわせでも、自分はいけないやつだと、感じてしまう/彼女は二人ともしあわせになりたい」(46頁)

 似たような言い回しが何度も続きます。その言葉によって紡がれた模様は見慣れたものです。時に、混乱しているようにも見えます。しかし、単に複雑な相を描こうとしているにすぎず、混乱しているわけではありません。それはゆっくり読めばわかるはずです。

 「結ぼれ」は、不幸な病者を生みだすと、マルティン・ブーバーを援用して、訳者は指摘します。本書全体から朗らかな印象を抱き得ないのは、「序」において、レインが「結ぼれ」を、絡みあい、こんがらかり、袋小路、支離滅裂、堂々めぐり、きずなという言葉で言い換えているところからもわかります。

 文字そのものに拘泥しないことが肝要です。『家族の政治学』でレインは、「しかし、私がそう言ったからといって、私の言うことを信じてはいけません。鏡のなかをごらんになって、ご自分で見てください」と述べています。ある言葉が記される。その言葉によって、レインが何を描こうとしているのかを聴きとること、読みとること、悟ること、それが読者に求められていることです。

 レインはブーバーの影響を受けています。ブーバーの本をいくつか渉猟した後で、この詩集を読んだらまた違った印象を抱くかもしれません。ブーバーの考え方を念頭に置いてから読むと、よりわかりやすいのかもしれません。
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プロフィール

EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

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