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世界は変わったのか――10年目の9月11日を前にして

 明日の9月11日で、3月11日に起こった東日本大震災から半年が経過することになります。

 同時に、その日は2001年9月11日にアメリカで起こった同時多発テロから10年が経過した日でもあります。

 当時、私は大学3年生でした。‎深夜だったか、アメリカが大変らしいとネットで見て、テレビをつけたら、世界貿易センタービルから煙が出ていました。一瞬、何が何だかわかりませんでした。

 更に見ていると、もう一機の飛行機が突っ込んできて、数分後、ビルの上層がぽっきり折れました。あれは肝をつぶしました。「映画を見ているような」という感覚ではありませんでしたが、尋常でないことが起こっている、どう考えていいのかわからないと感じました。

 さて、あらゆることを勘定に入れてこの10年について述べることはできませんが、一つの節目を迎えるにあたって、思うところを述べます。

 同時多発テロ後、アメリカは「テロとの戦争」を声高らかに叫び、それに対して少しでも批判や疑問を呈するものなら、「我々に味方しない者はテロリストの味方だ」という恫喝的な二者択一を迫られるようになりました。

 また、9・11後、イスラムやアメリカを「理解」するための多くの本が出ました。

 その中でどれだけの本が、今でも再読に値する本として挙げられるでしょうか。

 その中で、私は次の3冊を挙げたい。

エドワード・W・サイード(中野真紀子・早尾貴紀訳)『戦争とプロパガンダ(原題War and Propaganda A Collection of Essays)』みすず書房、2002(2001)

ジャック・デリダ(逸見龍生訳)『フィシュ アドルノ賞記念講演(原題Fichus)』白水社、2003(2002)

スラヴォイ・ジジェク(長原豊訳)『「テロル」と戦争 〈現実界〉の砂漠へようこそ(原題 Welcome to the desert of the real)』青土社、2003(2002)


 この内、サイードとデリダは他界しており、今でも活動しているのはジジェクだけです。

 けれども、事件直後のサイードの冷静なコメント、デリダの己の責任を勘定に入れた節度ある言葉は、今なお傾聴に値するものです。

 確かに、2001年9月11日にアメリカで起こったことは痛ましい事件です。

 しかし、この大惨事をシニカルに利用しながら、イスラエルが、パレスチナ人に対する軍事占領と弾圧を強化していることを、サイードは冷静に指摘しました(『戦争とプロパガンダ』所収の「集団的熱狂」より。同書p,17)。


 「九月十一日以来、イスラエル軍はジェニーンとジェリコに侵攻し、またガザ地区とラッマーラーとベイト・サッフールとベイト・ジャッラをくり返し爆撃して、多くの一般市民の死傷者と莫大な物的損壊をもたらした。これらすべてのことはもちろん、恥知らずにも、アメリカから供給された兵器によっておこなわれ、また「テロリズムと闘う」といういつもの嘘で偽善の決まり文句によって正当化されている。」(『戦争とプロパガンダ』みすず書房、p,17)


 このような恥知らずなイスラエルを支持するアメリカのいう「正義」とは何なのか、改めて問うのは意義のあることです。

 9・11後、アメリカ合衆国の反テロリスト作戦に与えられた最初のコード・ネームは「無限の正義」でした(後に、ただ神だけが無限の正義を行使できるというアメリカのイスラム聖職者たちによる非難を受けて、変更されたが)。
 
 そして、2001年9月22日、ジャック・デリダは、テオドール・アドルノ賞の授与式におけるスピーチで、世界貿易センターへの攻撃についてこう述べました。


 「九月十一日の犠牲者全員に対し、私は絶対的な同情を寄せますが、それでも、この犯罪について、何人も政治的に無実であったなどとは信じていない、と申し上げなくてはなりません。無実の犠牲者に対する私の同情は無限ですが、それは、この同情の対象が九月十一日にアメリカで亡くなった人びとだけにとどまらないからです。それが、ホワイトハウスのスローガンとして先日来「無限の正義」(infinite justice, grenzenlose Gerechtigkeit)と呼ばれているものに関する私の解釈です。すなわち、自己の喪失、自己の政治的な過誤から逃れようとしないこと。たとえ、途方もない規模で、この上もなく恐ろしい代価を払うこととなった時であろうと」(『フィシュ』白水社、pp,59-60)


 これを踏まえて、「この自己への関与、みずからを構図へ嵌め込むこの姿勢が、ただ一つの真の意味での「無限の正義」なのである」とジジェクは指摘します(『「テロル」と戦争』青土社、p,81)。

 言い換えれば、自分を勘定に入れずにしてなされる正義の行使は、「無限の正義」に値しないのです。

 デリダのこの言葉に、私は強靭な知的肺活量を持った哲学者の節度と高い倫理性を感じます。

 ところで、2009年にアメリカ大統領に就任したバラク・オバマ氏の選挙運動中のスローガンは、”Change!”でした。

 そこで、敢えて問おう。9・11以前と以後で世界は変わったのでしょうか。

 同時多発テロ後にしばしば見られた9・11以前と以後で世界は変わったという言説に、ジジェクは鋭く疑問を呈しました。

 厳密に言えば、九月一一日には時代を画する何事も起こらなかったのです。むしろ「アメリカの愛国主義があんなに広汎に広まったことが証明しているように、九月一一日の潰滅的な経験が、結果的には、アメリカの覇権的イデオロギーが「基本に戻」り、反グローバリズムや批判を喚起するその他の衝動に対してその基本的なイデオロギー的な座標軸をふたたび確固たるものにすることを可能にする装置として役立った」のです(『「テロル」と戦争』青土社、p,67)。

 それでは、日本はこの10年で「変わった」のでしょうか。

 以前(2011年7月4日)に書いたように、「日本には憲法九条があったから、この60数年間戦争と無縁であった」と言う人がいます。

 確かに、日本の国土が戦場になったことはありませんでした。しかし、「憲法九条があったから戦争と無縁であった」と主張できるほどに、私たちの手は真っ白なのでしょうか。

 それはあまりに無知です。

 戦後の日本が米国の戦略的枠組みのなかでしてきたこと、それは憲法の破壊以上のことであり、そうした米国との関係は同時多発テロ以後も変わりませんでした。

 アメリカの「テロとの戦争」という姿勢に対して、日本は断固たる「否」を表明しませんでした。

 あるいは、この10年間、毎年の自殺者は常に3万人であり、多くの人の労苦にもかかわらず、この数値が大きく変わることはありませんでした。

 このことを直視せずに声高に「変化」を叫ぶことは私にはできない。

 己の手が血に塗れていることから目を逸らして希求される「変化」は、私には偽善と欺瞞の混合物以上のものには思えません。

 おそらく、今ありうべき態度の一つは、スローガンや合言葉を熱狂的に唱えることではなく、事柄の微妙な差異に注意深い眼差しを注ぎ、これまで何が起きて、それがどう積み重なって今の状況を形作っているか、それを丁寧にたどることでしょう。

 「議論している時ではない。行動しなければ」という声が聴こえてくるかもしれない。

 その偽りの切迫感に対抗して、ジジェクに倣って私が参照したくなるのは、再び革命が起こりそうな気配に接して、1870年にエンゲルスに宛てて書いたマルクスの、「革命家たちはあと二、三年待てないのだろうか。『資本論』はまだ完成していないのに」という手紙です。積極的関与に抵抗し、座して何が起こっているかを冷静に分析せねばならない時があります。

 むしろ焦慮に陥らず、腰を据えて、物事を根源的に考えること、それがこの時代思潮に対する一つの抵抗だと私は考えます。
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プロフィール

EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

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