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『傷を愛せるか』

傷を愛せるか傷を愛せるか
(2010/01)
宮地 尚子

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 宮地尚子『傷を愛せるか』大月書店、2010

 医療人類学を専門とする精神科医によるエッセイ集である。傷を抱えながら生きるということについて、学術論文ではこぼれおちてしまうようなものを、すくい取ってみよう、それがエッセイ集を貫く思いである。

 傷を愛せるか。弱さを抱えたまま生きていられるか。傷や弱さを否認することなく、隠そうともせず、強い「鎧」を重ねて己を防御するのでもなく、ありのままの傷や弱さを受け入れたまま強くあることはできるか。そう著者は静かに問うているように思う。どこかしら自問自答の響きもするものの、他方で読者の私への問いでもあるように感じる。「弱さを克服するのではなく、弱さを抱えたまま強くある可能性を求めつづける必要がある」という著者の言葉に励まされる。

 また、本書のあちこちで感じるのは、著者の目が声をあげにくい人たちや小さくされている人たちに向かって特に注がれている点だ。例えば、著者のフルブライト奨学金での在外研究テーマは、「男性の性被害と社会政策」だったという。知らない人は驚くかもしれないが、女性だけでなく、男性の性被害者もいる。しかし、「男らしさ」にまつわる社会の神話ゆえに語り出すことはとても困難だ。そういう人たちに著者は目を注ぐ。あるいは、書名と同名の文章で、ある学会に参加した折、イラク戦争に参加した米兵のPTSD研究が紹介されていたことを述べるくだりで、こう指摘している。「イラクの人たちのPTSDについては調査どころか、言及さえされない」と。なぜそのことに著者は気付けるのか。それは、「ただひたすら主流から離れ、マイナーな分野を選び、マージナルな方向へマージナルな方向へと研究を進め」る歩みを著者がしてきたからだろう(p,67)。そうした視座の持ち主であることに、私は敬服する。

 更に、深い感銘を受けたことがある。どのエッセイにも著者の迷いやためらいが見られることだ。あることを書くと、その次のエッセイで、「こう書くといやみだろうか」とか「こういう批判が来るかもしれない」と書く。そこにあるのは、自分の主張に固執する頑迷さではなく、柔軟さだ。多くの声が輻輳している。

 著者の文章に、私は慰められた。傷を負っていることを隠そうとしなくていい、弱さを抱えたままの強さもある、そんな穏やかな語りかけが聞こえる。「元気になろうよ」とか「元気を出せよ」とか「がんばろう」という言葉に帯同するような押しつけがましさはない。自分の言葉を受け取る他者のことをよく考えている、そんな印象を抱かせられる文章だ。

 ここ数年以内に経験した理不尽で暴力的なことを、今年に入って赦せるようになったためか、著者の言葉を、私は穏やかに受け止めることができた。著者の文章自体が、私には癒やしであり、慰めであった。

 「傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷のまわりをそっとなぞること。身体全体をいたわること。ひきつれや瘢痕を抱え、包むこと。さらなる傷を負わないよう、手当てをし、好奇の目からは隠し、それでも恥じないこと。傷とともにその後を生きつづけること。傷を愛せないわたしを、あなたを、愛してみたい。傷を愛せないあなたを、わたしを、愛してみたい」、最後に著者はそう記す。この言葉を、私も唱和していきたい。
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EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

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