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『羊たちの沈黙 (上・下)』

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 トマス・ハリス(高見浩訳)『羊たちの沈黙 (上)』新潮文庫、2012
 トマス・ハリス(高見浩訳)『羊たちの沈黙 (下)』新潮文庫、2012

 上下二巻本で出された『羊たちの沈黙』の新訳である。

 本作品によってハンニバル・レクター博士という怪人は有名になった。本書において、レクターは脇役であるにもかかわらず、主役のFBI捜査官クラリス・スターリングや彼女が追う連続殺人犯”バッファロウ・ビル”よりも圧倒的な存在感がある。

 女性の皮を剥ぐ連続殺人犯、通称”バッファロウ・ビル”の捜索が物語の本筋である。「女性の皮を剥ぐ連続殺人犯」という記号的な表象ではなく、固有の名前と来歴と嗜好を持つ人間として”ビル”の人物造形はなされている。しかし、レクター博士という強烈な人物の前には、”ビル”の異常さは霞んでしまう。

 “バッファロウ・ビル”が何を目的として女性の皮を剥ぐのか、獲物をどこで見つけたのか、その欲求は何か、それらを辿ることも本作の楽しみ方の一つだ。そのように探偵小説として本作を読むことも可能だ。

 しかし、私はどうしても、レクター博士とクラリスという通奏低音に注目してしまいたくなる。その誘惑は抗いがたい。レクター博士の「助言」がなくとも、クラリスは事件を解明できたかもしれない。けれども、それではただの猟奇物の小説になってしまっただろう。本作が深みを持つためには、レクター博士とクラリスのやり取りは不可欠な要素だったのだ。

 高い知性を有し、礼儀を弁え、退屈と侮辱に我慢がならず、様々な知識に造詣の深いレクター博士とFBI訓練生クラリスとのやり取りには、師弟関係のような交流を思わせられる。少なくともレクター博士にとってクラリスは退屈しのぎをさせてくれる興味深い人物である。彼がクラリスにこだわる理由はそれであり、また二人の間に何ほどか人間的な交流を生じさせる理由でもあろう。

 “バッファロウ・ビル”を捕まえるためにFBI捜査官クラリスは、連続殺人犯で精神科医のハンニバル・レクター博士に助力を求める。だから、本作はいわゆる勧善懲悪の物語ではない。殺人者の助力を求めたクラリスは「善」の体現者というわけではない。もちろん、”バッファロウ・ビル”に対して怒り、被害者を早く救出したいと願っている。女性捜査官として被害女性にクラリスは同情的である。しかし、クラリスに「自分は善の体現者」だという尊大さはない。また仮に勧善懲悪物語だとするならば、レクター博士が逃亡した時点で、その構図は破綻している。つまり、本作はそういう話ではないのだ。

 レクター博士とクラリスのやり取りは、記号的に書けば連続殺人犯とFBI捜査官の交流となる。人によってはこの関係に眉を顰めるかもしれない。しかし、もっと受け入れ難い交流が、”バッファロウ・ビル”とその被害者の一人にあったことが終盤明かされる。むしろそれこそが人間の複雑さを例示していると言うべきなのかもしれない。レクター博士とクラリスのやり取りは「正常」ではないかもしれない。むしろ正常と異常の境界という古い問いを引き起こさせる。そんなことも考えさせられる小説である。
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プロフィール

EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

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