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『世界から猫が消えたなら』

世界から猫が消えたなら世界から猫が消えたなら
(2012/10/25)
川村 元気

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 川村元気『世界から猫が消えたなら』マガジンハウス、2012

 私には猫好きの友人が多い。SNSでやり取りしている時に、猫の画像をシェアすることがしばしばある。友人の一人は名刺に猫画像が入っており、人間の姿は仮の姿に過ぎず、猫が本体なのではないかとだんだん考えそうになってきている。また、最近知り合った方が一匹猫を飼っておられる。猫が好き過ぎてやばいという。その方とおしゃべりをすれば、必ず一回は猫の話が出る。

 元々、犬も猫も好きであるが、そうした人たちとの出会いのおかげで、猫好きが加速されてきたように感じる。そのためか、本屋で「猫」という単語を見れば、写真集だろうが小説だろうが、すぐに目が行くようになってしまった。ゆるキャラ依存症ならぬ猫依存症である。困ったものである。でも、それでいいのでござる。

 そんな時に本書に出会った。まずこのタイトルを見て、足が止まった。そして、表紙は顔の上半分だけ出している猫の写真である。この写真とタイトルが、様々なことを想像させてしまった。「もしかするとこれは悲しいお話かもしれない、でも、そうではないかもしれない」、まずそう思った。結局どんなお話かは読んでみなければわからない。

 主人公は30歳の郵便配達員。突然、不治の病であることが告げられ、余命はわずか。そんな時に悪魔が取引を持ちかけてくる。この世界から一つ何かを消す代わりに、一日だけ寿命を延ばしてあげよう、という取引だ。「僕と猫と陽気な悪魔の摩訶不思議な7日間の物語」と、帯文は的確に要約している。

 主人公は想像してみる、それが消えた世界を。これは何かを消してみることで価値が生まれ、失うことで、その大切さがわかる、そんな当り前のことをやさしい語り口で示してくれる本だ。

 目次にある通り、電話・映画・時計が順番に消える。それが消えたことで主人公は不便を感じたり、悩んだりする。その悩みや後悔を共に味わうことがこの作品の醍醐味の一つだろう。そして、タイトルにあるように、消えるリストに猫があがる。これまでに消したものとは重みが全く違う。結局どうするのかは読んで確かめてください。

 すぐに読み終わったが、途中、何度か涙なしには読めなかったところがある。いくつか印象に残ったことを記す。

 主人公の亡くなった母親は言う、「人間と猫はもう1万年も一緒に生きてきたのよ。それでね、猫とずっと一緒にいると、人間が猫を飼っているわけじゃなくて、猫が人間のそばにいてくれてるだけなんだっていうことが、だんだん分かってくるのよ」と。

 「僕は黙って猫を抱きしめる。あったかくて、柔らかい。フーカフーカとした感触。ふだん何気なく抱いていたけれど、こういうのが命っていうんだといまは思う」。猫と暮らしている方々は日々、この経験をしておられるのだと思う。多分それは当り前の触れあいなのかもしれない。でも、この作品を読んで思うのは、そうやってそばにいてくれる猫は、かけがえがないということだ。猫と共に暮らしている人たちにとって、猫はペットではなくて、大事な家族だからだ。

 人は自分の死を自覚したときから、無数の些細な後悔や、叶えられなかった夢を思い出しながら、生きる希望と死への折り合いをゆりやかにつけていくのだろう、と主人公は言う。続けて、「でも世界から何かを消す権利を得た僕は、その後悔こそが美しいと思える。それこそが僕が生きてきた証だからだ」と言う。こう言う主人公がとてもかっこいいと思う。

 あるのが当り前だと思っている多くのものや人に支えられて世界はある。でも、それはいつか消えてしまうものでもある。だからこそ、人はそれを大切にするのだし、愛おしく感じるのだ。平凡な真実だが、そういうことに人は支えられているのだろうと思う。
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プロフィール

EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

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