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『河合隼雄 心理療法家の誕生』

河合隼雄 心理療法家の誕生河合隼雄 心理療法家の誕生
(2009/06/02)
大塚 信一

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 大塚信一『河合隼雄 心理療法家の誕生』トランスビュー、2009

 本書は、河合隼雄氏の『未来への記憶』を中心にして、またその他の河合氏の著作を用いながら、河合氏が心理療法家になるまでの過程を辿ったものである。

 著者は河合氏への全的信頼を抱いて本書を書いている。河合氏の半生が生き生きとした筆致で描かれており、とても楽しめた。

 私は本書を、批評家・若松英輔氏の『井筒俊彦 叡知の哲学』にて知った。興味を抱いた直後に書店で目にし、手に取って引き込まれてしまった。河合氏については岩波新書の『コンプレックス』を以前に読んだが、著者はこの本の執筆依頼をしたのがきっかけで、以後40年にわたって河合氏と共に物語をつむいでいくようになる。

 読みながらまず強く印象に残ったのが、著者が可能な限り自己を出すことを控えようとしておられることである。御自身が関わったことを記す際にも、不必要な修飾はしない。出来事そのものを淡々と書く。むしろ、「河合隼雄」という偉人をアレンジした場の中で与えられた自身の務めを正直に精一杯果たそうという無私だけが感じられる。

 本書で見逃してはならない言葉を一つあげるとすれば、この「アレンジ」という言葉だろう。帯文にある「この見事な半生をアレンジしたものは誰か?」という問いへの答えを見つけることが、著者が本書を書いた主要な動機だったのだから。とはいえ、この問いに答えることはそれほど重要ではないだろう。むしろ、河合隼雄という人間を生み出したようなアレンジメントが存在すること、「それにかかわった人たちがアレンジするものとしてではなく、渦中のなかで精一杯自己を主張し、正直に行動することによってのみ、そこにひとつのアレンジメントが構成され、その「意味」を行為を通じて把握し得る」ことこそが重要である。河合氏への全的信頼と共に、この「心理療法家・河合隼雄」という人間をアレンジするプロセスに自分も参与させていただいているという感覚が、本書の通奏低音と言えるだろう。

 「終章 5 約束を実行する」において、河合氏の生涯は、アメリカでの先生である「シュピーゲルマンとの約束を実行するためのものだった」と著者は書く。それはこういう約束である。シュピーゲルマンが教育分析の費用を1ドルにすると言った時、河合氏は大いに悩む。本当は1ドルではないからである。費用がないとはいえ、1ドルは安すぎるというのだ。河合氏がユング派の分析を受けるということは、本人のみならず、日本にとっても、ユング派全体にとっても意味のあることだから安くしたい、それがシュピーゲルマンの理由であった。河合氏が行うであろうことの意味を汲んでの1ドルである。結局、この分析料1ドルという提案を河合氏は飲むのだが、シュピーゲルマンに対して「あなたがしてくれたことを、私はいつか必ず誰かにする」と約束する。それが心病む人への関わりであり、多くの人との関わりでしてきたことだろう。涙を流すほど、私はこのとてもすばらしい話に感動した。
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EMI Takashi(ヒソカ)

Author:EMI Takashi(ヒソカ)
2005年に神経性疾患を発病し、体調記録をつけるためにブログを始めました。そして、読書能力の回復に伴って、本のレビューを書くようになったものの、最近は時間を作れず、やや休止中でございます。

 数年前、出版社で働くようになりました。仕事そのものが面白く、その都度自分で課題を見つけて解決するというプロセスが楽しい。
 このブログでは、「扉の開いた」言葉を求めつつ、この世界に生きる一人の人間としてキリスト教・世界に対して疑問に思うことを考察していきます。単に評論家的な批評をするのではなく、自分でできることを示せるような、自分の持ち場に立った言葉を紡いでいきたいです。

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